就労継続支援事業所が取組む「適正運営」/運営指導

就労継続支援事業所が取組む「適正運営」/運営指導

厚生労働省は、就労継続支援事業所(A型・B型)の運営実態に対して、かつてないほど厳しい視線を注いでいます。

令和7年11月28日に発出された「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」および、令和8年4月13日付の事務連絡「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における在宅支援の要件遵守の徹底について」は、まさにその象徴と言えるものです。

背景にあるのは、一部の事業者による「公費を原資とした不適切な利益追求」への強い危機感です。

本記事では、事業所が明日から取り組むべき「適正運営」のポイントを解説します。

令和7年・8年の最新通知(ガイドライン等)が事業所に求めるもの

厚生労働省は、就労支援の 「質の確保」  「不適切な参入の排除」 です。

行政は、eスポーツを単に遊ばせるだけ、あるいは就労能力の向上に寄与しない自習を行わせるなどの行為を「就労支援の実態が認められない」としています。

「生産活動」の適正化:公費による支援として認められる条件

適切な生産活動とは「知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援」が行われるものであると再定義されました。

単に「事業所に居ればよい」という状況は、生産活動とは認められません。

適切な生産活動と不適切な生産活動

項目 適切な生産活動(認められる例) 不適切な活動事例(厳禁とされる例)
活動内容 具体的な納期や品質管理が存在し、一般就労に必要な能力向上が見込まれる作業。, eスポーツの遊び利用、植物の水やりを1日数回行うだけ、卓球教室や麻雀教室の手伝い 、所定の場所に居るだけの活動。
訓練性 個別支援計画に基づき、職場コミュニケーションスキルの向上等を含めたカリキュラム。 就労能力向上に寄与しない、目的の不明瞭な過度な自習。
収益の妥当性 収益の妥当性,取引単価が 市場価格 に照らして妥当であり、安定した生産活動収入を得ている。 業務委託内容に比して 委託費が不自然に過大・過小 。実態のない身内法人等からの委託。
市場性 地域の中に、当該活動を通じて習得した能力が活かされる労働市場が存在する。 社会的ニーズがなく、単に時間を潰すためだけに行われる活動。

 

「生産活動シート」による取引の透明化

今後の運営指導で注目すべきは、厚生労働省が提供した「生産活動シート」の存在です。これは、指定権者が事業所の生産活動や会計状況を正確に把握するためのチェックツールとして位置づけられています。

ガイドラインでは指定権者に対し、このシートを積極的に活用することを推奨しています。

指定権者は、このシートを通じて、生産活動収入から適切に賃金・工賃が支払われているか、あるいは訓練給付費が不適切に工賃へ流用されていないかをチェックするという訳です。

  • 取引価格の妥当性:  「市場価格」から逸脱した高額な委託費を身内法人から受け取っていないか。
  • 賃金・工賃の原資:   給付費から賃金・工賃を補填することは厳禁 です。生産活動収支が赤字であるにもかかわらず、給付費を実質的な原資として賃金支払いに充てる「不適切な還流」を徹底的にマークしています。

 

利用者の募集方法(基準違反となる「誘因行為」の境界線)

利用者を獲得するために不適切な特典を提示することは、障害者の意思決定を歪める「利用者誘因行為」として、指定基準違反(指定取消対象)となります。

不適切と考える募集活動チェックリスト

項目 具体例
金品・物品の提供を謳う募集 特典として商品券を配る、生産活動に不要なタブレットやPCを無償提供する。
不適切な費用負担の無料化の強調、宣伝 交通費や昼食費を「一律無料」と強調し、福祉的支援の質ではなく「経済的利益」で誘引する。
根拠のない高額工賃・賃金の確約 生産活動の実態がないのに「1日通所で〇〇円」と利用者を誘因する
誤解を与える表現の多用 パンフレットやWebサイトなどで、実際には機会が限られている生産活動(eスポーツ等)を「常時可能」と誤認させる。

 

生産活動の実態

指定権者に報告している生産活動とは別の生産活動をしている場合は、運営規定等の変更を行う必要があります。

就労支援事業会計の厳守

健全な運営を証明するためには、就労支援事業会計の原則を遵守し、管理者が実態を掌握している必要があります。

適正な会計管理のための3つの原則

1 福祉事業会計と生産活動会計の厳格な区分(区分経理の徹底)

事業所は、提供するサービスにかかる「福祉事業会計」と、作業活動にかかる「生産活動会計」を明確に区分して管理することが重要です。

2 生産活動による「自立した収入」の確保

利用者に支払う賃金や工賃は、原則として生産活動によって得られた収益から支払う必要があります。

決算書等を確認し生産活動収入と支払った賃金・工賃の総額を比較し、収入の範囲内で工賃、賃金が支払われているか否かが重要です。

3 訓練給付費の「工賃補填」の禁止

「訓練給付費」を実質的に利用者の賃金や工賃に充てることは厳禁です。

 

疑義が生じないように(監査等も含めた対応になることもある)

ガイドラインでは、運営指導等時、指定権者は「生産活動シート」を確認することとなっています。

①運営法人が発注元となっている。

②生産活動の実態がない。

③業務内容と比べて、委託費が過大

④生産活動シートは正しいか。

スコアや平均工賃区分算定で訓練給付費を含めていないか。

⑥昨年度まで多額の赤字だったが、黒字化した場合は経緯や具体的な取組みを確認すること。

 

補足:会計管理の基準となる資料

これらの原則を遵守するために、ガイドラインでは以下の資料を常に参照し、適切に作成しておくことが求められています。

就労支援事業会計の運用ガイドラインは、就労系サービスの会計処理の基本となります。

主な作成書類: 就労支援事業事業活動計算書、事業活動内訳表、製造原価明細書など、法人形態に応じた書類の整備保存が必須です。

生産活動シート: 収支状況や取引先情報を正確に把握するためのツールとして活用が推奨されています。

 

利用者への支援内容の実施状況、適切性

ガイドラインに基づき、利用者への支援内容が適切に実施されているかを判断するための重要ポイントを整理します。

個別支援計画の作成とモニタリングの徹底

指定基準に基づき、個別支援計画の作成および定期的なモニタリングが適切に実施することが重要です。

また、利用者の心身の特性に応じ、自立支援と日常生活の充充実を目的として、適切な技術をもって日々訓練が行われているかということも重要な論点の一つですので、サービス提供記録は毎日しっかり作成してください。

就労能力の向上に資する「生産活動」か

支援の内容が、単なる「時間の穴埋め」になっていないかも重要です。

実施している生産活動が、利用者の「一般就労に必要な知識や能力の向上に資するもの」かどうかもポイントの一つです。

また、前述の不適切な事例も排除していく必要があります。

就労継続支援A型における特有の留意点

A型事業所は、雇用契約に基づく支援としてさらに踏み込んだ工夫が求められます。

作業能率の向上: 利用者の障がい特性を踏まえ、作業能率が向上するような具体的な工夫が必要です。

利用者の希望の尊重:利用者の就労に対する希望や適性を踏まえた支援内容である必要があります。

事業所都合の時間の制約の排除: 「作業がないから」などの事業所都合の利用時間等の制約は設けることができません。

 

管理者や人員配置について

管理者の責務

管理者は職員の指揮命令と業務管理を一元的に行う責務があります。

運営指導では、管理者が事業所の支援内容や運営実態について適切に回答できない場合、管理業務を十分に果たしていないと判断され、是正指導の対象となることもあります。

適切に配置すべき職種と役割

ガイドラインでは、管理者、サービス管理責任者、職業指導員および生活支援員等について、最低人員基準に基づき適正な配置にする必要があります。

 「不適切な配置」事例

新規指定を受ける時だけサビ管を在籍させ、指定後にすぐ退職させるといった「名義貸し」は、支援の質の低下を招くため厳禁です。

ガイドラインでは、「指定審査時に面談を行ったサビ管等が、例えば最初の運営指導まで一貫して業務を行っていること」が望ましいとされています。

サビ管が欠けた際、「サビ管欠如減算」が適用されない範囲内(翌々月までの補充など)で欠員状態を繰り返し、常態化させている事例

その他(頻繁な離職、求人募集)

職員の離転職が頻繁な事業所は、「重点的な確認対象」となり、運営実態に問題がないか詳しく調査される可能性が高くなります。

行政は「指定申請時のみ所属し、すぐに退職する」サービス管理責任者の名義貸しを最も警戒しています。

 

在宅支援の徹底事項:例外措置としての厳格な運用

令和8年4月13日の「在宅支援の要件遵守の徹底」に関する事務連絡では、在宅支援は「重度障害者で通所が困難な利用者への例外的な措置」であることが再定義されました。

これまでは本人の希望を優先する傾向がありましたが、今後は「市町村が支援効果を認めた場合」のみが対象であることが強調されたことから、事前の徹底したアセスメントが重要になります。

つまり、本人の同意に加え、在宅でサービスを利用することが、一般就労に向けた能力向上などにどう寄与するのか、客観的な支援効果を事業所が説明し、市町村の判断を仰ぐ必要があります。

証拠(エビデンス)の保存:ICT機器の活用

訓練内容、支援内容を客観的に証明するため、以下のデータの保存し、定権者から求められた際、これらのデータを提出できる準備をすることが「望ましい(推進)」とされました。

保存すべきデータ・・・ 音声データ、動画ファイル、または静止画像など(セキュリティが施された状態)。

在宅支援導入の必須フロー

アセスメント:  在宅利用による支援効果が認められるか個別に検討。

本人の同意:  適切な手続きを経て、書面等で同意を得る。

市町村の判断:  市町村に有効性を説明し、支給決定の判断を仰ぐ。

環境整備:  ICT機器の準備とセキュリティの確保。

在宅支援の「7つの要件」と実務上の注意点

令和6年度報酬改定で、在宅支援では、以下の「7つの要件(ア~キ)」の すべて を満たす必要があります。

項目 内容
(ア)就労機会と能力向上訓練の確保 単なる自習ではなく、常に作業活動やメニューが確保されていること。
(イ)1日2回の連絡・指導 電話やメール等で進捗確認や助言を行い、必ず「日報」を作成すること。
(ウ)緊急時対応体制の整備 事故や体調急変時に、職員が速やかに利用者の元へ駆けつけられる体制を構築していること。
(エ)随時の照会・支援体制 作業中に疑義が生じた際、即座に訪問や連絡で回答できる体制があること。
(オ)週1回の評価・指導 訪問、通所、またはICT活用により、週に最低1回は評価を行うこと。
(カ)原則月1日の訪問または通所 月の利用日数のうち、少なくとも1日は対面支援(事業所職員の訪問または利用者の通所)を行うこと。
(キ)運営規程への明記 在宅で実施する訓練・支援内容を運営規程に反映させていること。

令和8年4月13日「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における在宅支援の要件遵守の徹底について」に関する事務連絡で示された特に事業所が留意する点

令和8年4月13日付の事務連絡「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における在宅支援の要件遵守の徹底について」では、不適切な事業運営を防止し、適切な支援を徹底するために、事業所が特に留意すべき点として以下の5つが示されています。

1 対象者の適切な選定とアセスメントの徹底

在宅支援の対象は、利用者が希望すれば認められるものではなく、「在宅でのサービス利用による支援効果が認められる」と市町村が判断した利用者が対象となることから、事前利用者の同意とアセスメントを徹底することが重要です。

2 運営規程へ明記と証拠の保存

運営規程には、在宅で実施する具体的な「訓練内容」および「支援内容」をあらかじめ運営規程に明記しておく必要があります。

訓練や支援の状況について、本人の同意を得た上で、音声データ、動画ファイル、静止画像等をセキュリティが確保された状態で保存し、指定権者から求められた際に提出できるようにしておくことが「望ましい」とされています。

3 週1回以上の適切な評価等の実施

訪問、通所、または電話・パソコン等のICT機器の活用により、評価を週1回は行うことが義務付けられています。

4「原則対面」の前提とオンライン支援の限定的運用

原則として対面での支援が求められます。

オンラインの条件: オンライン支援が認められるのは、重度障がいで通所が困難な場合など、「オンラインによる支援効果が認められる」と市町村が判断した場合など、要件を全て満たす場合に限られます。

5 緊急時における速やかな駆けつけ体制の整備

事故や急変、災害などの緊急事態が発生した際、事業所の職員が速やかに利用者の元へ駆けつけ、対応できる体制を整備しておく必要があり、これを遵守することとあります。

在宅支援として不適切な例

「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン(令和7年11月28日)」では、就労支援としての実態が認められない不適切な活動例が具体的に列挙されています。

また「在宅支援と称して、公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある活動や、就労に必要な知識及び能力の向上に寄与しない自習を行わせている」と記載されています。

 

  • eスポーツのみ: 単にゲームを行わせるだけで、就労能力の向上に繋がらない活動。
  • 自習のみ: 目的が不明確で、専門的な助言や指導を伴わない自給自足的な学習。
  • 単なる水やり等: 1日の中で極めて短時間(数分程度)しか要しない軽微な作業。
  • 場所の確保のみ: 所定の場所に居る(ログインしている)こと自体が目的化している活動。
  • 娯楽・レクリエーションの延長: 卓球教室や麻雀教室の助手に相当するような、娯楽性の強い活動。

 

WAMネットへの公表義務と透明性の確保

障害者総合支援法に基づき、事業所の運営状況をWAMネット(障害福祉サービス等情報公表システム)に公表する義務があります。

A型のスコア表は、 全体(様式2-1)だけでなく、 実績(様式2-2)も含めて掲載する必要があります。

財務諸表の公表も義務付けられています。就労継続支援A型(スコア得点)、就労継続支援B型(平均工賃月額)の算定基礎をなる賃金、工賃等の根拠書類となるので、確実の掲載する必要があります。

 自社ホームページに掲載していても、場所が分かりにくかったり古い情報のままである場合は、指導の対象となります。

 

生産活動の実態と生産活動による収入額や取引先情報

生産活動の実態(就労支援としての妥当性)

実施されている生産活動が単なる作業にとどまらず、利用者の一般就労に必要な知識および能力の向上に寄与しているかは重要な論点になります。

不適切な生産活動はもちろんですが、 広告やホームページで示されている内容や、指定権者に報告している生産活動を実施していないかと、実際に現場で行われている活動に齟齬がないか確認が必要です。

生産活動による収入額(会計の透明性と賃金支払能力)

生産活動による収入額は、報酬区分に直結する重要な事項ですので、根拠書類を残すことが重要です。

 

つまり、決算書等に基づき、生産活動収入と利用者に支払った賃金・工賃の総額を比較し、賃金・工賃が高くなっていないか、確認してください。

●「高額な支出項目がないか確認する」

ガイドラインには、「高額な支出項目がないか確認する」という記述があります。これは「訓練給付金を、不適切に利用者の賃金や工賃に流用(補填)していないか」を確認するという意味になります。

項目 内容
「工賃補填」の隠れ蓑になっていないかの確認 就労継続支援事業では、利用者に支払う賃金・工賃は、原則として生産活動による収益から支払う必要があります。

しかし、一部の事業所では生産活動収益が不足しているにもかかわらず、見かけ上の賃金・工賃を高くするために、運営法人や関連会社との間で不自然な取引(内部取引)を行う事例があります。

過大な業務委託費の計上 運営法人が発注元となり、委託内容に見合わないほど「過大に設定された業務委託費(「社会通念上、妥当な支出と言えるか」」を生産活動会計の収入として入れることで、実質的に公費から工賃・賃金を支払っている(工賃補填)ケースがあります。

会計操作の疑いの検証

決算書において、特定の項目に不自然に高額な支出がある場合、「実態のない生産活動」「不適切な会計区分」である可能性が疑われることがあります。

本来は福祉事業会計(サービス提供にかかる費用)で計上すべき経費を生産活動会計から支出したり、その逆を行ったりすることで、収支バランスを意図的に調整していないかが確認の対象となります。

受注単価や受注数量が適正か、 実際にその金額に見合うだけの作業記録や納品書が存在するか。

取引先情報:取引の正当性と継続性

事業所がどのような相手とどのような条件で契約しているかはは重要な項目となります。

取引先企業の名称、所在地、代表者、および具体的な契約内容や受注単価、受注数量などの根拠が確認されます

特定の1社のみに依存せず、複数の取引先を確保しているかが望ましいとされており、単一の取引先のみの場合は、十分な量の生産活動が継続的に確保できる根拠が求められます。

●「生産活動シート」による可視化

これらすべての情報を正確に把握するための共通ツールとして、「生産活動シート」があります。

活用場面: 新規指定申請時だけでなく、概ね3年に1回の運営指導、指定更新時、さらには毎年度4月の体制届の際などに、必要に応じて提出を求められることが想定されています

指定権者はこのシートを用いることで、生産活動の内容や収支を正確に把握し、A型のスコア得点やB型の平均工賃月額の記載に誤りがないか、報酬区分に誤りがないかを効率的に確認することができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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